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一年中22℃の冷たい炭酸泉

一年中22℃の冷たい炭酸泉

冷泉の里――蘇澳

文・鄧慧純  写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

1月 2025

蘇澳は雨が多く、石灰岩が豊富なことから冷泉が湧き出している。まさに大自然の恵みである。

夏に涼をとるなら冷泉に入るとよい。だが、寒波が襲う冬の日にも冷泉は心地よい。通年平均22℃という冷泉に身を沈め、しばらくじっとしていると、身体が芯からじわじわと温まってくる。たくさんの気泡が皮膚を覆っているのを見ると、まるでソーダ水につかっているように感じる。あなたは、このような入浴を体験したことがあるだろうか。

宜蘭県の蘇澳は太平洋に面し、三方を山に囲まれている。七星嶺の麓に発展した町で、かつては「蘇澳蜃市(蜃気楼)」として「蘭陽八景」のひとつに数えられた。ここは鉄道と港、道路が交差する、交通の要衝でもある。蘇澳の文化や歴史を研究してきた荘文生の案内で、この小さな町の今昔に触れてみよう。

東海岸の交通の要衝

現在の国道5号線の終点出口があり、蘇花改公路(台9線蘇花公路山区路段改善計画)の起点でもある蘇澳は、台2線と台9線が交わる場所でもあり、さらに十大建設の一つとして建設された蘇澳港がある。蘇澳は昔から台湾東海岸の交通の要衝だったのである。

「今年は鉄道‧宜蘭線が開通して100周年になります」と荘文生は言う。1924年に開通した宜蘭線は、台北と宜蘭をつなぐ鉄道で、間に立ちはだかる雪山山脈に遮られることなく便利に行き来できるようにした。

蘇澳と花蓮をつなぐ蘇花公路の起点でもあるため、昔は花蓮へ向かう人は蘇澳に一泊して早朝に出発するバスの金馬号に乗る必要があった。そのため蘇澳駅の周辺には旅館が建ち並び、多くの人や車が行き来していた。

1980年以降は、蘇澳と花蓮を結ぶ鉄道北廻線が開通し、蘇澳新駅が設けられた。これにより従来の蘇澳駅には各駅停車の列車しか止まらなくなり、蘇澳駅周辺はしだいに衰退していった。

しかし、交通輸送の古い施設から往時をしのぶことができる。荘文生は私たちを鉄道蘇澳線の行き止まりにある扇形転車台(ターンテーブル)に案内してくれた。現在の列車は運転席が前後についているが、昔の列車は一方向にしかなかったため、転車台を用いて方向転換する必要があったのである。この施設は現在では貴重な文化遺産となっている。

扇形転車台から海の方向を見ると、鉄道の軌道が途切れていて、その先の突き当りに「蘇東隧道(トンネル)」の文字が見える。かつて蘇澳駅と蘇澳港の間を行き来していた鉄道の跡だ。かつて鉄道から貨物船へと貨物が積み替えられ、蘇澳港から出ていった様子がイメージできる。トンネルは今ではサイクリングコースの一部になり、中に入ると海底の絵が3Dで浮かび上がり、人気の撮影スポットとなっている。

蘇澳の住民は「冷泉」ではなく「硫黄泉」と呼ぶと語る荘文生。

福建省泉州からの移住者

蘇澳の開拓時代に話が及ぶと「一番最初はスペイン人がここに教会を建て、船も乗り入れていました。サン‧ロレンツォ城という名前が残っています。おそらく蘇澳の最初の名称です」と荘文生は言う。

漢人による蘇澳の開発には少なくとも100年以上の歴史があり、それは蘇澳で最も歴史の長い二つの寺廟からうかがい知ることができると荘文生は言う。蘇澳駅の近くにある「法主公」を祀った張公廟に案内してくれた荘文生は、「ここが蘇澳で最も古い廟で、1827年に建てられました」と言う。廟の中には1925年に木彫職人の陳銀生が手がけた作品もある。廟の入り口には、清朝の提督‧羅大春がここに学堂を開いたことを記念する石碑と、蘇花古道の一里塚が立っている。

もう一つの最も古い寺廟は、そこから近い中原市場にある宝山寺だ。ここには清水祖師爺(北宋時代の泉州の高僧)と蘇澳開拓に尽力した先賢の位牌が祀られている。「清水祖師は泉州出身の人にとっては重要な信仰対象で、法主公は泉州人の守護神です。この二つの寺廟が祀っているのはどちらも泉州の神様なので、蘇澳を最初に開拓したのは泉州人だと考えられます」

蘇澳駅からほど近い中原市場は蘇澳の台所である。1933年から営業している「廟口米粉羹」という店では、米粉羹(ビーフン入りとろみスープ)や、八宝粥(もち米や豆類、穀類などを一緒に煮た粥)、花生湯(甘いピーナッツスープ)などが看板メニューだ。米粉羹は具材が豊富でスープもおいしく、花生湯は昔ながらの味わいで、揚げ餅などを加えていただく。

張公廟の向かいにある「阿英小吃部」は3代続く老舗で、ユニークな魚雑(魚の内臓)の燻製が食べられる。毎日早朝に隣りの南方澳漁港から仕入れてくる魚の種類は季節によってカジキ、サメ、マンボウ、マグロ、エイなどさまざまで、その浮袋や肝、胃袋、卵などを燻製にした蘇澳ならではの味わいだ。

冷泉公園には個室風呂や家族風呂があり、熱い温泉もある。家族や友人と水入らずで楽しむことができる。

七星嶺トレイルから見下ろす

七星嶺トレイルの入り口は冷泉公園の近くにあり、なだらかで歩きやすい道が4750メートルにわたって続く。宜蘭県はトレイルの途中に、一星観泉、二星観澳、三星観山、四星観樹、五星観港、六星観海と七つの展望台を設けていて、それぞれの高度によって異なる景観が楽しめる。「三星観山」展望台からは畚箕山と遠くの蘇花改公路が見え、蘇澳の市街地が山々に囲まれていることがよくわかる。「五星観港」は標高206メートルで、海岸線に連なる蘇澳港、北方澳、南方澳港が見渡せる。「六星観海」からは、晴れていれば遠くに亀山島と太平洋が見え、「蘇澳ブルー」と呼ばれる景観を堪能できる。標高200メートルを超えると360度のパノラマが広がり、蘭陽平原と蘇澳の町を一望にできる。山歩きのあとは、冷泉につかろうではないか。

蘇澳の冷泉には大量の二酸化炭素が含まれているため、つかっていると気泡が肌を覆い、まるでソーダ水に入っているような感じがする。(鄧慧純撮影)

蘇澳冷泉公園の水質は赤硫黄泉で、敷地内には竹中信景の工場と旧宅がある。

冷泉は蘇澳の人々の暮らしの一部になっていて、どんなに寒い日でも22℃の冷たい水につかる。数分すると身体が芯から温まってくるのである。(外交部資料写真)

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