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台湾をめぐる

屋台料理をほおばり 庶民の暮らしを肌で感じる ――

屋台料理をほおばり 庶民の暮らしを肌で感じる ――

台湾の夜市を歩く

文・蘇晨瑜  写真・莊坤儒

4月 2023

林格立撮影

台湾には300を超える夜市がある。地図を広げると3分の2以上の町村に1つ以上の夜市があることになり、その密度の高さは、台湾人の食に対する情熱を表している。

夜市が好きなのは台湾人だけでなく、外国人観光客も必ず訪れる場所となっている。ワンコインで食べられるサツマイモ団子や臭豆腐、豆花、素麺や春巻きなどのB級グルメがあふれかえる。暑い夏も、日が暮れれば涼しい風が吹き、ラフな服装にサンダル履きで歩きながら、アジアらしい人ごみの中を歩くことができる。夜市は年中無休のカーニバルのようでもあり、台湾で最も素朴な庶民生活の縮図なのである。

台湾の夜市は世界に知られている。CNNがかつて報じた「誰もかなわない」台湾のトップ10の中で、夜市は堂々の一位に挙げられた。

台湾には何ヶ所の夜市があるのだろう。経済部(経済省)中部事務所の調査によると、2023年1月4日現在、台湾で登録されている夜市は164ヶ所に上る。中でも多いのは台南市の49で、言い換えれば人口3万7816人に1か所の夜市がある計算になる。この調査の対象は不定期に開かれる流動夜市だけで、さらに大型の観光夜市を含めれば、300を超えると見られている。

基隆の夜市は屋台料理で知られており、それぞれに特色があるので、事前に食べたいものを調べていった方がいい。

百年を超える台湾夜市の歴史

「台湾ではなぜこれほど夜市の需要が高いのか」――夜市専門家である中央研究院民族研究所の研究員・余舜徳が調査をしたところ、台湾の特に中南部では「ほとんどすべての村落で、週に一度は流動夜市が開かれている」と言う。台北市の南港や宜蘭の近郊でも、今も流動夜市が立ち、常に多くの人出でにぎわう。

夜市には食べ物も飲み物もあり、パフォーマンスやゲームも楽しめ、ファッションや日用品も売られているため、日常のニーズをほぼ満たすことができるのである。

台湾の夜市の歴史は100年余り前までさかのぼることができ、今では世界に知られる台湾グルメの多くも夜市から誕生した。有名な食堂やレストランの多くも、最初は道端の屋台から始まったのである。港や廟の門前などで天秤棒を担いで売り歩いていた軽食が、安くておいしいというので現在の規模まで成長した。夜市は観光のためにあるだけでなく、台湾の食文化史において庶民の実生活を支えてきたのである。

台湾のB級グルメは世界に知られている。夜市では地元ならではの料理を味わいたい。

にぎわいを楽しむ

オランダの心理学者で人類学者のヘールト・ホフステード博士の研究によると、台湾人は生活の中の集団主義を好み、この特性は世界で最も顕著だという。言い換えれば、台湾人は集団で同じことをするのを好むということだ。

社会学者で仏光大学社会学・ソーシャルワーク学科の林信華教授も、台湾人の生活方式は集団を好むと指摘する。「一緒に生活し、一緒に楽しむ感覚を好みます」と言う。そのため、リーダー格が声をかけると、すぐに屋台が集まって一つの夜市が形成され、屋台主同士も団結する。「これは西洋ではなかなか見られないことです」と言う。

林信華によると、夜市では屋台主のさまざまな人生や庶民の奮闘の歴史を見ることもできる。移民社会の台湾では、人々は互いに妥協することができ、したがって夜市は「人々の生活リズムをつなぐ場」で、台湾人のやさしさを感じることができる。余舜徳の研究でも、台湾の夜市はにぎやかさと、「雑然とした中に秩序がある」という特色が見られると言う。昼間は仕事に奔走し、夜になるとリラックスするために夜市をひやかしに行く。特に買い物を目的とするのではなく、仕事を終えたら楽な服に着替えてサンダルを履き、何か食べながら屋台を見て回る。田舎ではパジャマ姿で夜市に来る子供もいる。「にぎやかな人ごみを楽しむだけなのです」と言う。

アジア各国に夜市はあるが、台湾の夜市はなぜこれほど人気があるのだろう。余舜徳によると、台湾の夜市は雑然とした中に文化的秩序があり、だからこそ外国人観光客にも人気があるのだと考えられる。「しかも台湾の夜市は安全で、食も衛生的で、管理がなされています。台湾の夜市では安心して歩きながら異国情緒を楽しむことができるのです」と言う。

台北の華西街夜市は外国人観光客に最も人気のある観光夜市の一つで、山海の珍味が味わえる。

庶民の最高の宴

特色ある食文化は夜市の最大の魅力である。台湾は、食文化の面で北東アジアと東南アジアが交わる地点に位置し、そのためあらゆる食材や料理が集まっていると余舜徳は指摘する。北東アジアの料理、東南アジアの料理、さらに中国各省の料理、そして160万人の移民がもたらしたさまざまな料理が楽しめる。

台湾独自のB級グルメは創意に満ちている。余舜徳が例に挙げるのは、夜市ステーキ、蚵仔煎(牡蠣オムレツ)、大鶏排(巨大フライドチキン)、塩酥鶏(鶏やさまざまな食材の唐揚げ)、大餅包小餅(砕いた揚げパンを薄皮で包んだもの)、大腸包小腸(もち米の腸詰に豚の腸詰を挟んだもの)などだ。「夜市の屋台料理にイノベーションを見て取ることができます」と言う。

臭豆腐、タピオカミルクティー、豆花、蚵仔麺線(とろみスープの素麺)、そして火であぶった腸詰やスルメなど、それぞれに物語がある。

台湾師範大学の講師で世界遺産ガイドの馬継康は、海外からの観光客を案内する時に、これら食の背景の物語を話すことにしている。「台南の料理は甘いものが多いですが、それは昔は砂糖が貴重でお金持ちしか食べられなかったからです」鄭氏王朝の時代、宮中の料理人が独立して外で商売を始める時、「庶民の料理と宮中の料理の違いは砂糖が入っているかどうかでした。甘味は富貴の味だったのです」

どの夜市にもある蚵仔煎は、「国姓爺」鄭成功と関係がある。馬継康によると、鄭成功が台湾に来てゼーランジャ城を攻撃した時、米が不足していた。端午節に兵士たちに十分に食べさせるため、台湾のサツマイモ粉で生地を作り、海辺で捕れる牡蠣ともやしを加えてチマキの代用品にした。これが煎䭔と呼ばれ、現在の蚵仔煎の原型となったのだという。また、台南の意麺という麺は、生地にアヒルの卵を加えており、麺を延ばす時に「イ」という音がすることから名づけられた。このほかに、台湾語の「幼(細いという意味)麺」が変化したものだという説もある。馬継康が語る物語に、外国人観光客は楽しそうに耳を傾け、屋台料理の味わいも増す。

地元の人が集まる南機場夜市は、よく整備されていて歩きやすく、おいしいものも多い。

必ず食べたい夜市の料理

数々の屋台を前にすると、どの料理も食べたくなるが、馬継康は夜市が打ち出す「小吃宴」を提案する。

「台北の胃袋」と呼ばれる寧夏夜市の「千歳宴」では、一度に20種余りの屋台料理が食べられる。うずら卵の串、蚵仔煎、大腸包小腸、臭豆腐、魯肉飯(ルーローファン)などがコースで出され、大勢で少しずつ食べられる。

千歳宴は小規模なコース料理と言え、おなかが一杯になる。台湾の「美食の都」である台南にも類似したコース料理があり、食事の環境は良く、台南で有名な蝦巻(エビのすり身の揚げ物)、担仔麺(タンツーメン)、棺材板(シチュー入りの食パン)、杏仁豆花などが食べられる。自分たちで夜市を歩き、一軒ずつ食べていくと時間がかかるが、小吃宴なら一つの場所で一度にいろいろと食べられるのである。

旅のスケジュールが限られている中、夜市に行きたい場合は、北部なら基隆の廟口夜市を訪れたい。ここでは天婦羅(さつまあげ)や鶏絲飯(ほぐした鶏肉をのせたご飯)、螃蟹羹(カニ入りとろみスープ)、鼎辺趖(米粉麺入りスープ)などが食べられる。また台北の饒河街夜市にはミシュランガイドが推薦する臭豆腐と胡椒餅があり、士林夜市には十全薬膳大排骨(薬膳スープ)や、顔より大きいフライドチキンがある。

中部の逢甲夜市は「夜市の中の夜市」と呼ばれている。台湾中の夜市の新しいアイディアの多くはここから生まれており、逢甲夜市のグルメを見逃すことはできない。

このほかに、台北の通化夜市の氷火湯圓(白玉氷)や地瓜球(サツマイモ団子)、炸鶏翅(手羽先の唐揚げ)、嘉義の文化路夜市の沙鍋魚頭(魚の頭が入った鍋)、火鶏肉飯(ジーローファン)、宜蘭羅東夜市の葱餅(ネギ入りお焼き)や炸皮蛋(揚げピータン)なども見逃せない。

外国人観光客が憎み愛する臭豆腐は、台湾人にとっては最も旨いものの一つで、おいしい臭豆腐の味は一生忘れられない。

夜市で地元の雰囲気を楽しむ

「子供の頃は鳳山に住んでいて、金曜日の夜に開かれる流動夜市が楽しみでした」と話す馬継康は子供のような笑顔を見せる。翌日は学校も休みなので、夜市へ行ってパチンコをしたり、乗り物に乗ったりして思い切り遊んだそうだ。豪華なものは何もないが、観光客にも幸せを感じさせてくれる場所なのである。

昨今は都市の発展によって夜市の盛衰も速く、突然人気が出たり、急に廃れてなくなってしまうものもあるが、長年にわたって常ににぎわい続けている夜市もある。

夜市で評判になった屋台料理を五つ星ホテルのレストランが取り入れることもあり、シェフが工夫を凝らし、腕を振るう。例えば肉圓(サツマイモ粉の皮で肉餡を包んで蒸したもの)にアワビや貝柱を入れて高級料理にしたものもある。だが、馬継康は、これでは屋台料理の特色と意義が失われてしまうと考える。

「屋台料理の特色は、量は少なめで安いことにあり、夜市の価値は地に足がついてる点にあります」と言う。街の至る所で売られている蚵仔麺線を「高級ホテルで食べても気分が出ません。これは庶民の暮らしから生まれたものですから」と言う。麺線は街角の屋台の椅子に座ったり、立ったまま食べるもので、それが良いのである。

台湾人には常にイノベーションを求める血が流れている。そこから世界を席巻するタピオカミルクティーが生まれ、おいしい大腸包小腸が生み出された。夜市ではこれからも、数々のおいしい料理が誕生することだろう。

台湾を旅する際には、日が暮れたらにぎやかな夜市に足を運んでいただきたい。湯気の上がる屋台で肉入りとろみスープを頼み、小さな椅子に座って思い切りほおばる喜びを味わう。あるいはフライドチキンを買って歩きながら食べ、旅の自由な雰囲気を楽しむのもいい。こうした喜びは、すべて夜市で叶えることができるのだ。

台北の寧夏夜市では、多数の屋台料理を集めた「千歳宴」を打ち出しており、時間が限られた旅行者は一度にさまざまな料理を楽しめる。

夜市には食も遊びもあり、その土地に根付いているので、町を理解する最良の方法と言える。