野性味を高級料理に
Sinasera 24のテーブルに就いてまず驚かされるのは、東海岸の原住民集落がフランスと呼応していることだ。フランス料理では「現地の、旬のものを食す」とされ、それはまさに自然のリズムに従うアミ族の生活態度でもある。違うのはディテールへのこだわりである。アミ族の料理は、豊富集落の頭目の家でいただいたような、和え物や炒め物、煮物などが中心だ。
「ワイルドなんです」とアミ族の料理を形容するのは、Sinasera 24に塩を提供する蔡利木さんだ。ワイルドと言うのは、天然の食材をあまり手をかけずに調理し、本来の味のまま食べることである。蔡利木さんによると、かつて集落がまだ豊かでなかった頃は、炒め油も十分になく、塩だけで食べることも多かったそうだ。こうした経験から、彼は長老に教えを請い、海水を煮込んで塩を作る技術を習得したのである。
原住民の飲食がワイルドで原始的なのに対し、楊柏偉さんが作る料理は繊細かつ華麗で、まったく逆の方向性を持つ。彼は白い食器をキャンバスに、料理をアートとして提供する。自然の変化に従って田畑で育まれた素材が作品となる。
「毎日出勤する道で、田んぼの稲穂がふくらみ、ローゼルの花が開くのを目にします。港へ行けば旬のタチウオや海藻があり、どんな食材を使うべきか、大自然が教えてくれるのです」と楊柏偉シェフは言う。こうしたインスピレーションは、生活リズムの速い現代社会ではなかなか得られないものだ。「もし都会にいたら、季節の変化を感じさせてくれるのは果物屋くらいかもしれませんが、果物屋でも一年中同じフルーツを陳列しているのです」
ただ、彼は原住民らしい料理を出すつもりはなく、地元食材を定番のフレンチのメニューに取り入れる。パンにつけるオリーブオイルを苦茶油に替え、カヌレにはバニラビーンズではなく、月桃(ゲットウ)の種子を使う。さらに、馬告(アオモジ)や刺葱(カラスザンショウ)、苦茄(ヒラナス)、香檸(シークワーサー)といった風味の強い食材も用いるが、さまざまなソースと合わせることで食べやすい料理にする。
この冬、レストランでは今までにないジビエ料理を出した。この料理を通してフレンチのジビエ文化に敬意を表すとともに、アミ族の冬の狩猟文化を示したいと考えたのである。ウサギや蜂の子、ダチョウ、マガモなどを味わえば、台湾東海岸の山と海が目の前に広がる。
繊細で華麗なSinasera 24の料理は、フランス文化とアミ族文化の対話でもある。
集落の長老から海塩の作り方を学んだ蔡利木さんは、海水を炒める伝統的な方法で天然塩を作っている。
Sinasera 24の行動によって、めずらしい素朴な食材が掘り起こされ、フレンチのテーブルを彩るようになった。写真はピラミッド型の結晶になった手作りの海塩。