伝統的で新しい「鬆糕」
もう一つ、ローカルな米の伝統菓子と言えば「外省人の厨房」と呼ばれる台北市南門市場で知られる手敲鬆糕(米粉の蒸しケーキ。アズキなどが入っている)であろう。
蒸気が木製の型の中に吹き込み、数十秒もすると、職人は型をひっくり返して蒸しあがった菓子を取り出す。「コンコンコン」とリズミカルにたたくと、ふかふかの白い鬆糕が現われ、米と餡のやさしい香りが立ちのぼる。
従来は南門市場でしか聞くことのできなかった懐かしい音が、今では迪化街の合興壹玖肆柒でも聞かれるようになり、通りに響き渡る。この音に多くの人が足を止め、興味深そうにのぞき込む。
「これは何ですか」と多くの人が尋ねることからも、現代人には馴染みのない菓子であることがわかる。合興糕糰店の三代目の任佳倫・鄭匡佑夫妻が新たに合興壹玖肆柒を創業したのは、若い人にも鬆糕を知ってもらうためだった。
伝統に新たな衣を着せるというアイディアは、新旧のスタイルが融合する迪化街の特徴ともマッチする。店の入り口にかけられたオレンジ色の暖簾や、試食用の鬆糕に添えられた竹の菓子切り、それにギフト用パッケージの赤い糸の縫い目などは、鬆糕に大稲埕の衣を着せるイメージで演出されている。
そして舞台の主役である鬆糕にもきめ細かな演出がなされている。鄭匡佑夫妻は当初、鬆糕の小さい木型を作る機械を探して食品や機械の見本市を巡り、数えきれないほどの失敗を繰り返し、ようやく鬆糕が上手く仕上がる型を作り出すことに成功した。
鬆糕作りのもう一つのカギは、白米を挽くプロセスである。ジャポニカ米を厳選して洗い、水に浸けた後、粉に挽いて篩にかけ、木型に入れて蒸し上げる。米粒の大きさが鬆糕のきめ細かさや舌触りに大きく影響するが、冷めて全体が縮むと硬くなってしまう原因にもなる。「そこで私たちは篩にかける時に米粒の大小を微調整しています。おかげで水分を保つことに成功し、もちもちした食感が出せるのです」と鄭匡佑は説明する。
父である任台興のサポートがあり、二人は2016年から伝統菓子に新たな可能性を探り始めた。さまざまな形の木型を製作して形に変化を持たせ、黒米、紫米、赤米に栗やアズキやゴマなどの甘い餡を加え、お年寄りから子供までおいしく食べられるように工夫を凝らした。最近はイタリアンレストランのシェフと協力し、異国風味の塩味の鬆糕を開発し、それに台湾のクラフトビールを合わせるという提案もしている。「さまざまな味を開発し、業界の垣根を越えて協力するのは、さまざまな場で鬆糕が人々の目に触れるようにすることで多くの人に合興を知ってもらうためです」と鄭匡佑は言う。
彼は、こんな話もしてくれた。若者が両親を連れて大稲埕に鬆糕を食べに来ることがある。この小さな菓子が親子二世代の対話の懸け橋となるからだ。「私たちも、イノベーションの過程で両親との対話が増えました」と言う。

米は大地からの贈り物である。主食になるだけでなく、さまざまな菓子にもなり、数百年にわたって台湾人の食卓を豊かにしてきた。