伝説の温泉
金崙温泉や紅葉温泉、芃芃温泉は初心者でも比較的見つけやすいが、もっと人里離れた深山に隠れている野湯も多く、それを見つけるのは容易ではない。
野湯探しが趣味で、「烙野孩imyeahhi」というチャンネルを運営しているYouTuberの洪子祐は、台湾で最も美しい野湯とされる台東県の栗松温泉を皮切りに、台湾で日帰りできる野湯をすべて訪れた。そしてガールフレンドの童子凌と出会った後、二人でYouTubeチャンネルを立ち上げ、野湯探索を紹介し始めた。
洪子祐によると、野湯めぐりをする人々の間では、伝説級とされる十大野湯のリストが知られている。ベテランの野湯ハンターが十数年前にまとめたもので、轆轤温泉や無双温泉などが挙げられているという。これらの野湯は到達するのが非常に難しく、百岳登山の経験を積まなければ訪れることはできない。だが2021年、ある探検隊がこのリストには書かれていない、高齢の原住民ハンターの間だけで言い伝えられてきた温泉があることを聞きつけた。叙事詩レベルの、到達が極めて難しい「塔達芬温泉」である。
洪子祐と童子凌は、重装備の登山の経験を重ね、2~3ケ月の集中訓練をしてから、2024年に花蓮県卓渓郷にある塔達芬温泉にチャレンジした。彼らは八通関越嶺道東段から山に入り、瓦拉米山荘、抱崖山荘、大分山荘を経て、4日をかけて100キロの山道を歩いた。その間には乗り越えるのも困難な急斜面などもあったが、ついに塔達芬温泉の空撮に成功したのである。
洪子祐によると、塔達芬温泉は視覚的にも非常に衝撃的な湯の滝である。滝は非常に珍しい10段もある段瀑で、しかも温泉が流れ落ちているのである。水温は高さによって違い、42~55℃だ。滝の4段目のあたりでは大量の温泉が流れ込んでいるため湯気が上がっているが、5段目より上は湯気が出ていないので、冷たい水が流れ落ちている思われる。
一般の登山では6日はかかる道なき道を4日で踏破した童子凌は、最後に登山口まで下りてきた時の感覚をこう語る。全身が悲鳴を上げ、筋肉が爆発しそうだったが、壮大な温泉を目の当たりにできて行った甲斐があった、と。山を越え、谷を越えて秘湯を発見し、大自然の中で湯につかれば、身体の疲れも吹き飛ぶ。冒険と挑戦の後の大きな達成感があればこそ、もう一度、もう一度とチャレンジを続けたくなるのであろう。
塔達芬温泉は珍しい十段の湯の滝で、到達するのは極めて難しく、叙事詩レベルの伝説の湯と言われている。(YouTubeチャンネル「烙野孩」提供)
金崙温泉に近い丹提温泉会館では温泉卵作りが楽しめる。