正義の使者として弱者のために
2005年、台南で仲介業者による外国人労働者に対する性的暴行事件が発生した。被害者はベトナムから来た100人を超える女性だった。阮文雄神父は多くの人の力を結集し、12年をかけて裁判を勝ち抜いた。「まるで自分の姉妹が踏みつけにされたように感じました」と言う。台湾に働きに来るに当って巨額の仲介料を借りている彼女たちは、故郷に送り返されたら借金が返せないと思い、苦しみに耐えていたのである。
故郷の家族の暮らしを良くしたいと、希望を胸に台湾に来たのに、踏みにじられ心身に深い傷を負ったのである。物質的に償われても、心の傷を完全にいやすことはできない。
「仲介制度こそ、外国人労働者問題の根本である」と考える神父は、内外の巨大な仲介体制に戦いを挑んだ。すると四方八方から圧力がかかり、神父の身の安全さえ脅かすようになった。それでも阮神父の働きかけで「人身売買防制法」が制定され、台湾は2010年に米国国務省の「人身売買リポート」リストの2級から1級に回復し、阮文雄神父はアメリカで、現代の「奴隷制度撲滅の英雄」とされたのである。
外国人花嫁や外国人労働者の平等と正義のために闘ってきた神父は「以前よりずっと良くなりました」と言う。立法院で就業服務法52条が改正され、外国人の雇用や管理に規範が設けられた。だが神父は、真の問題解決には法の執行面での努力がまだまだ必要だと指摘する。
神父が主宰する移住労働者‧移民事務所には、台湾に来てわずか3ヶ月で、職場の機械で右手を切断し、働けなくなった人がいる。失った右手を服で隠しながら左手で字を書く練習をしていた。神父は「今は彼のために当然の権利を勝ち取ろうと努力しています」と言う。言葉が通じないため、職場での教育が着実に実施されず、機械には設計上の欠陥もあって若い労働者が重大な労働災害に遭ってしまったのである。「多くの危険な仕事が外国人労働者に任されています」と話す阮神父は、外国人労働者が平等な扱いを受けられるよう声を上げ、奔走している。
民族衣装のアオザイを着てデモに参加するベトナム出身のキリスト教徒。