
今年10月、台湾で初めての図書館の人気投票が行われ、ネットユーザー数十万人が「一生に一度は行きたい図書館」を選出した。参加した台湾各地の図書館の中には、蔵書百万冊の国立図書館から、一分野だけに特化した専門図書館まであり、台湾の図書館の多様性が際立った。
2014年、国際図書館連盟(IFLA)の年次総会がフランスのリオンで開催され、「一生に一度は行きたい世界の1001の図書館」を選出することが決まった。そこで、中華民国図書館学会も「一生に一度は行きたい台湾の図書館トップ10」の投票活動を行なった。68の図書館が名乗りを上げ、6月10日から9月30日の間、一人3票までという形でオンラインの投票が行われた。選ばれたトップ10の図書館は、図書館学会の協力の下、台湾を代表して「一生に一度は行きたい世界の1001の図書館」リストへの登録を申請する。
近年、台湾では地方自治体が読書推進に力を入れており、特色ある図書館が次々と生まれている。建築物のデザインからインテリアまでさまざまな工夫が凝らされているが、図書館設立の目的は、多くの利用者を集め、快適な空間で本を読んでもらうことだ。
注目したいのは、高雄県と合併した高雄市が読書推進に尽力してきたことから、今回のトップ10では4館が高雄から選ばれたことだ。高雄市立図書館総館、大東芸術図書館、小港分館、そして高雄文学館である。これらの図書館はネットとロジスティックスを活用し、高雄全域を結んで蔵書350万冊の書庫を形成し、域内の各図書館がそれを最大限に利用できるようにしている。
開館から1年に満たない新北市立図書館総館は、斬新な空間デザインと24時間サービスが高く評価されて3位にランクインした。将来的に、公立図書館の運営モデル革新をリードすることになるだろう。トップ10の中で最も意外だったのは、蔵書わずか3万冊の中華飲食文化図書館が2位に選ばれたことだろう。
この他にランク入りしたのは、豊富な蔵書を持つ国家図書館、そして嘉義民雄郷立図書館、静宜大学蓋夏図書館、台東大学図書資訊館である。外国メディアもしばしば紹介する北投図書館は、今回は思いがけずトップ10に入らなかった。
中華民国図書館学会の林巧敏・秘書長は、惜しくも落選した図書館も、思いがけず選ばれた図書館も、一般市民が図書館を知る機会になると考えており、これを機会に、知名度は低いが特色のある小規模図書館を訪れてほしいと語る。
投票の結果発表において、図書館学会は順位と得票数を公表せず、トップ10のリストだけを公表した。「ランキングにこだわるあまり、今回の選考の趣旨を忘れてほしくなかったからです」と林巧敏は言う。
第一位:高雄市立図書館総館
ネット投票により、第1位に選ばれたのは高雄市立図書館総館だった。
「図書館は知識を得るだけの場所ではなく、快適な読書空間であることが求められます」と話す高雄市立図書館総館の潘政儀館長は、ネットで手軽に何でも調べられる時代、それでも人々が図書館に行くのは、読書の雰囲気を味わいたいからだと考えている。
読書にふさわしい快適な空間を造るため、同館は建設時に国際コンペでデザインを選んだ。最終的に「館の中に樹があり、樹の中に館がある」というコンセプトを採用し、日差しの強い高雄市内に涼しげな空間を生み出した。
斬新な建物の他に、高雄市立図書館総館には数々のコレクションがある。例えば、4階の展示室には高雄に関する古今内外の書籍が集められている。「キー出版物」の展示ケースには、中国語の古典文学や良書の初版や絶版本が600冊近く収められていて、古典文学の当時の姿を目にすることができる。
ダークホース:飲食文化図書館
建物も美しい大型図書館とは対照的に、台北市の繁華街の商業ビルの地下室には中華飲食文化図書館がある。40年にわたり、中華料理に関する図書やレシピ集を収集しており、蔵書は2万冊に上る。食文化に関する書籍のコレクションが最も充実した図書館である。
この図書館を運営する中華飲食文化基金会執行長の張玉欣によると、ここは面積も狭く、蔵書も多いとは言えないが、今回のトップ10に選ばれた図書館の中では唯一の専門図書館で、国立図書館でも見つからないような蔵書もあり、他にはない独特の性質を持つという。
張玉欣は『清宮御膳』と書かれた装丁も美しい大判の一冊を取り出す。これは台湾では手に入らないだけでなく、借りることさえできない。著名な中華レストランが昨年海外で展覧会を開いた時には、中華飲食文化図書館から特別に一年間借用して展示した。もう一つの薄い小冊子もおもしろい。表紙には『射雕英雄宴』とあり、小説『射雕英雄伝』の作者である武侠小説家・金庸のサインが入っている。1998年に香港で「金庸武侠小説学術シンポジウム」が開かれた際、その晩餐会では特別に著名シェフに依頼し、小説『射雕英雄伝』に出てくる料理を出した。この小冊子はその時のメニューなのである。
同館には、国賓歓迎晩餐会から一般の食堂のものまで、あらゆるメニューやレシピが揃っている。食文化を研究する張玉欣は「メニューから、時代や社会の変化が読み取れます」と語る。清代から日本統治時代、そして戒厳令が敷かれていた時代を経て今日まで、食卓に並んだ料理はそれぞれの時代の縮図なのである。
大型図書館ではハイテクを駆使したサービスを提供しているのと違い、中華飲食文化図書館は規模が小さく、利用者の多くも飲食業者や食文化を専攻する研究者であるため、図書館と利用者との交流は非常に密接だ。
「今日はどんな本をお探しですか?」「ご商売の方はいかがですか?」と、図書館の職員は利用者に声をかける。こうした姿は飲食文化図書館ではごく普通のことだと張玉欣は言う。「利用者の半数は顔見知りで、お顔を見ただけで何をお探しなのか分かることもあります」
大型図書館では外観や設備の充実度を競い合っているが、中華飲食図書館は専門分野に特化した蔵書と、利用者との交流を通して、図書館界の「小さいが爽やかな」存在として、今回の投票で高い評価を得たのである。
図書館は読書のために
オープンから一年に満たない新北市立図書館総館は、休日には入館者が絶えない新北市で人気のランドマークの一つとなっており、今回の投票では第3位に輝いた。
「利用者の視点に立ち、入館者が見学するだけでなく、ここに止まりたいと思うように工夫しています」と話すのは館長の唐連成だ。同館は開幕当初から利用者にフレンドリーで便利な空間を目指し、多くの市民に愛されている。
新北市立図書館総館は、台湾で初めてユニバーサルデザインを採用した図書館であり、さまざまな年齢層や体の不自由な利用者のための工夫が凝らされている。例えば、書架と書架の間を広くとってあるのは車椅子でも通りやすく、すれ違えるように配慮してのことで、机がやや高めなのも車椅子でそのまま使えるようにするためだ。
このほかに、新北市立図書館ではフロアを児童向け、高齢者向け、青少年向けに分け、それぞれの体格に合わせて書架や椅子、テーブルの高さを変えてある。また、高齢者向けのフロアには文字を拡大したタッチパネルや、新聞を読むための拡大鏡なども設置してあり、血圧計や体重計も利用できる。児童向けフロアには大量の絵本があり、児童劇場や親子遊戯エリアなども設けられている。青少年向けフロアには、学習漫画やグラフィティスペース、屋外レジャー施設もある。
このほかに、新北市立図書館総館では台湾で初めて24時間貸出システムも採用し、昼間利用できない人にもサービスを提供している。開館時間中に図書館を訪れることのできない人は、インターネットで借りたい本と受け取り時間を予約すれば、その本が自動化システムに置かれ、利用者は図書館の外にあるシステムを使って受け取ることができるというものだ。予約していない人でも、図書館側では厳選した数百冊の図書リストを用意しており、いつでもシステムを通して借りられるようにしている。
新北市立図書館総館はハードとソフトの両面で斬新な概念を取り入れ、利用者が訪れたいと思う新世代の図書館となった。
図書館が一つの流行に?
不景気と言われているが、地方自治体は図書館建設に積極的に取り組んでいる。高雄市と新北市に続いて、台中市と桃園市も独自の図書館を建設中だ。しかし、新興の大型図書館がグリーン建築指標やデザインの斬新さばかりを追い求め、読書こそ図書館の本質であることを忘れてしまったら、それは単なる箱物や流行の追従に終わってしまうだろう。
台湾の図書館トップ10の投票活動を通して分かるのは、公立私立、あるいは大学の図書館であれ、読書の本質を大切にし、利用者の気持ちをつかんだ図書館こそ、市民から愛されているということである。

高雄市立図書館総館の新刊展示コーナー。多くの利用者が「書店よりきれい!」と言う。

「キー出版物」の展示ケースには初版本や絶版本などの特別な蔵書が収められている。高雄市立図書館総館の貴重なコレクションだ。

都会の喧騒の中、高雄市民は自然光の下で本を読む快適な空間を持つ。

中華飲食文化図書館は今回のトップ10にランクインした唯一の私立図書館であり、また専門分野に特化した図書館でもある。ここでは食に関する図書や刊行物の他、大量のレシピやメニューも収蔵している。

中華飲食文化図書館は今回のトップ10にランクインした唯一の私立図書館であり、また専門分野に特化した図書館でもある。ここでは食に関する図書や刊行物の他、大量のレシピやメニューも収蔵している。

『清宮御膳』には清の皇帝の毎日の食が記録されており、台湾にはこの1セットしかない。作家・金庸のサインが入った『射雕英雄宴』のメニューもこの一つだけだ。

『清宮御膳』には清の皇帝の毎日の食が記録されており、台湾にはこの1セットしかない。作家・金庸のサインが入った『射雕英雄宴』のメニューもこの一つだけだ。

図書館にユニバーサルデザインを取り入れ、書架を斜めに配することで、照明が少なくても、より明るく広々と感じられる。

新北市立図書館総館ではフロアごとに利用者層のターゲットを定めている。親子エリアでは椅子や机を低めにし、書架や家具類の角に安全ガードをつけて、子供が安心して利用できるようにしている。

台湾で初めて24時間サービスを開始した新北市立図書館総館は夜景も美しい。外壁に突き出た空間は「スローリーディング」をテーマとした読書室。邪魔されずに読書に集中できるスペースである。

図書館はデザインの美しさを追求するだけでなく、読書こそが図書館の目的であることを忘れてはならない。